適正在庫とは?計算方法・業界ごとの管理のコツ・エクセル活用法まで徹底解説
「在庫が多すぎて倉庫を圧迫している」「欠品で販売機会を逃してしまった」といった課題を抱えていませんか。こうした課題を解決する鍵となるのが、適正在庫の考え方です。
本記事では、適正在庫の基本から5つの計算方法、業界ごとの管理のコツ、エクセルを使った計算・管理方法までを徹底解説します。
適正在庫とは
適正在庫とは、顧客の需要を満たしつつ、欠品による「販売機会の損失」と、過剰在庫による「無駄なコスト」の双方を最小限に抑える最適な在庫量のことです。
適正在庫が重要な理由
在庫は多すぎても少なすぎても、企業経営に悪影響を及ぼします。
適正在庫を把握することで、必要な商品を必要なタイミングで供給しやすくなり、在庫保管コストや廃棄ロスを削減できます。同時に、欠品による販売機会の損失や顧客離れも防止できます。
近年は需要変動が激しくなっているため、経験や勘だけに頼らず、データに基づく適正在庫管理がますます重要になっています。
過剰在庫と欠品がもたらす影響
過剰在庫の主な影響は、以下のとおりです。
- 倉庫保管費や管理コストが増加する
- 在庫に資金が固定化され、資金繰りが悪化する
- 食品をはじめ消費期限のある商品は廃棄ロスが発生する
一方、欠品の主な影響は以下のとおりです。
- 販売機会を逃し、売上が減少する
- 顧客満足度の低下や競合への流出を招く
- 緊急発注による仕入コストや物流コストが増加する
- 生産ライン停止や納期遅延など、サプライチェーン全体に影響する場合もある
このように、過剰在庫と欠品はどちらも企業利益を圧迫する要因です。だからこそ、その中間となる適正在庫の把握が欠かせません。
適正在庫の計算方法
適正在庫の計算方法には、主に5つの計算式があります。それぞれの特徴と向いている企業を以下の表にまとめました。
| 計算方法 | 特徴 | 向いている企業 |
|---|---|---|
| 安全在庫+サイクル在庫 | 発注から納品までに必要な在庫量(サイクル在庫)と、 需要変動や納期遅延に備える安全在庫を合算する方法。 実務で最も一般的 |
製造業、小売業、卸売業など幅広い業種。 まず適正在庫を算出したい企業 |
| 在庫回転率+在庫回転期間 | 在庫が年間何回入れ替わるか(回転率)と、 何日分の在庫を保有しているか(回転期間)から在庫の健全性を判断する方法。 適正在庫の直接計算というより現状分析向き |
すでに在庫管理を行っており、 過剰在庫や滞留在庫を把握したい企業 |
| 在庫回転率÷在庫回転日数 | 在庫効率を簡易的に比較するための指標。 数値が高いほど在庫が効率よく売れている状態と判断できる。 適正在庫の算出というよりKPI管理向き |
商品ごとの在庫効率を比較したい小売業・EC事業者 |
| 安全在庫+需要数 | 将来の販売予測(需要数)に安全在庫を加えて算出する方法。 需要予測を前提とするため、繁忙期や季節変動にも対応しやすい |
食品業界、アパレル業界、EC業界など 需要変動が大きい企業 |
| 交叉比率(在庫回転率×粗利益率) | 在庫効率と利益率を同時に評価する指標。 「在庫を持つ価値がある商品か」を判断できる。 適正在庫の計算というより商品選定や在庫最適化向き |
多品種の商品を扱う小売業、卸売業、EC事業者 |
それぞれの計算式を順に解説します。
計算式1. 「安全在庫+サイクル在庫」で算出
<向いている企業>まず適正在庫を算出したい企業
「安全在庫+サイクル在庫」は、適正在庫の基本の計算方法です。
安全在庫とは、需要やリードタイム(商品を発注してから納品されるまでの期間)に多少の変動があっても対応できるように備える量のことで、以下の式で算出します。
安全在庫 = 安全係数(1.65)× 使用量の標準偏差 × √(発注リードタイム+発注間隔)
サイクル在庫とは、発注してから次に発注するまでの間に消費される在庫量の半分のことです。毎月1日に発注するのであれば、約15日間に消費される在庫量がサイクル在庫にあたります。
例えば、出荷量の標準偏差が100個、発注リードタイムが5日、発注間隔が10日に1回の場合、安全在庫は1.65×100×√5日+10日=900.86となります。
また、1日の出荷平均が500個の場合、サイクル在庫は500×10日÷2=2500となり、適正在庫は900.86+2500=3400.86となります。
計算式2. 「在庫回転率+在庫回転期間」で算出
<向いている企業>定期的に発注を行う企業
この方法は、自社が適正在庫数を保てているかを判断する際に有効です。それぞれ以下の式で算出します。
- 在庫回転率 = 年間売上高 ÷ 平均在庫金額
- 在庫回転期間 = 棚卸資産合計 ÷ 年間売上高
在庫回転率は1年間に在庫が入れ替わった回数を示す数値、在庫回転期間は倉庫資産が完全に入れ替わるまでに要した年数を示します。
例えば、単価100円、1日の出荷平均が500個、期首在庫数が5000個、期末在庫が4000個とした場合、在庫回転率は(100円×500×365日)÷(((5000+4000)÷2)×100円)=40.56となり、在庫回転期間は(100円×4000)/(100円×500×365日)=0.22となります。
計算式3. 「在庫回転率÷在庫回転日数」で算出
<向いている企業>過剰在庫や滞留在庫を把握したい企業
在庫回転日数は、以下の式で算出します。
在庫回転日数 = 日数 ÷ 在庫回転率
回転日数の数値が少ないほど在庫は適正であり、売上が向上しやすい状態と判断できます。
例えば、計算式2でもとめた在庫回転率を使って在庫回転日数をもとめる場合、365÷40.56=9となります。
計算式4. 「安全在庫+需要数」で算出
<向いている企業>需要変動が大きい企業
需要予測をもとに適正在庫を算出する方法で、計算式は以下のとおりです。
適正在庫数 = 一定期間の需要数 + 安全在庫数
一定期間の需要数を把握・蓄積しておく必要があるため、需要数の安定した商材の予測に向いています。
例えば、一日の出荷平均を500個として、先10日間の需要数と、計算式1で求めた安全在庫を使って算出する場合、適正在庫数は(500×10日)-900.86=4099.14となります。
計算式5. 「交叉比率=在庫回転率×粗利益率」で算出
<向いている企業>多品種の商品を扱う企業
交叉比率は、以下の式で算出します。
交叉比率 = 在庫回転率 × 粗利益率
交叉比率は、在庫がどれだけ儲かっているのかをみる指標です。交叉比率は高いほうが効率がよい商品と判断できます。
例えば、粗利益率が20%として、計算式2でもとめた在庫回転率を使って交叉比率をもとめる場合、40.56×20%=8.11(811%)となります。
【業界別】適正在庫の考え方
適正在庫の考え方は、業界によって重視すべきポイントが異なります。ここでは食品業界・製造業・小売業の3つの業界について解説します。
食品業界における適正在庫
食品業界では、欠品防止だけでなく、賞味期限・消費期限を考慮した在庫管理が重要です。
過剰在庫は廃棄ロスや値引き販売につながり、利益を圧迫します。一方で在庫不足になると、販売機会の損失や取引先からの信頼低下を招きます。さらに、天候や季節イベント、販促施策によって需要が大きく変動しやすい点も食品業界の特徴です。
<食品業界の注意点>
- 賞味期限切れによる廃棄リスク
- 季節商品・イベント需要への対応
専門家のコメント
需給担当者においても、商品やSKU単位から、さらに一歩踏み込んだロット単位で有効在庫を把握し、製造依頼数を調整する必要があります。
取引先ごとに異なる出荷期限ごとの有効在庫を把握することで「在庫はあるのに出荷できない」という状況をゼロにする管理が求められます。
製造業における適正在庫
製造業では、原材料・仕掛品・完成品それぞれで適正在庫を考える必要があります。
在庫が不足すると生産ラインの停止や納期遅延が発生する可能性がある一方、過剰在庫は保管スペースや管理コストの増加につながります。発注リードタイムや生産リードタイムを考慮した在庫設計が重要です。
<製造業の注意点>
- 原材料・仕掛品・完成品ごとの管理
- 生産停止リスクの回避
小売業における適正在庫
小売業では、店舗やECサイトで欠品を防ぎながら、過剰在庫を抑えることが重要です。
欠品すると販売機会の損失だけでなく、顧客離れにつながる可能性があります。一方で過剰在庫は、値下げ販売や不良在庫の発生につながります。
季節変動やトレンド、キャンペーンによる需要変化を考慮する必要があり、商品ごとに売れ筋・死に筋を分析して発注量を調整することが重要です。
<小売業の注意点>
- 売れ筋商品の欠品防止
- 季節商品・トレンド商品の需要変動への対応
エクセルで適正在庫を計算する方法
適正在庫は、エクセルを使って計算・管理することも可能です。ここでは具体的な手順を解説します。
エクセルで管理するために準備する項目
まず、以下の項目を管理表として準備します。
- 商品名
- 商品コード
- 現在庫数
- 出庫数
- 入庫数
- 平均販売数
- リードタイム
- 安全在庫
エクセルの計算式で適正在庫を算出する方法
エクセルでは、セル参照を利用して適正在庫を自動計算できます。計算式は以下のとおりです。
= 平均販売数 × リードタイム + 安全在庫
たとえば、B2セルに平均販売数、C2セルにリードタイム、D2セルに安全在庫を入力している場合、以下のように入力します。
=B2*C2+D2

適正在庫を下回った場合に発注アラートを表示する方法
IF関数を使えば、在庫が適正在庫を下回った際に発注アラートを表示できます。以下のように設定しましょう。
- 現在庫数が適正在庫を下回った場合「発注必要」と表示
- 上回っている場合は「適正」と表示
=IF(B2<C2,”発注必要”,”適正”)
さらに条件付き書式を活用すると、発注が必要な商品のセルを自動で色付けできます。発注漏れの防止や確認作業の効率化につながるため、あわせて設定しておくのがおすすめです。

適正在庫をエクセルで管理するメリット
エクセルは多くの企業で導入済みのため、追加コストをかけずに適正在庫の管理を開始できます。
関数や条件付き書式を活用することで、適正在庫の計算や発注タイミングの管理も可能です。商品数や管理拠点が少ない企業であれば、エクセルでも一定レベルの在庫管理を実現できます。
特に、適正在庫の考え方を導入したばかりの企業に向いている方法といえるでしょう。
適正在庫を考える際に押さえておきたいポイント
適正在庫を算出する際は、以下の3つのポイントを押さえておきましょう。
1. リードタイムを正確に把握する
適正在庫はリードタイムを基準に算出するため、リードタイムが実態とズレていると過剰在庫や欠品の原因になります。
仕入先や商品によってリードタイムが異なる場合や、繁忙期や物流状況によって納品日数が変動するケースも考慮する必要があります。定期的に実績値を確認し、計算に反映させることが重要です。
2. 季節変動やイベントを考慮する
季節商品やイベント需要がある商品は、通常時と繁忙期で適正在庫が大きく変わります。
需要が増加する時期を事前に予測し、発注計画へ反映することが重要です。過去の販売データを分析して、傾向を把握しておきましょう。
3. 需要予測を定期的に見直す
一度算出した適正在庫を固定化すると、実態とのズレが生じる可能性があります。
新商品の発売や競合動向によって需要が変化することもあるため、定期的に販売実績と予測値を比較し、精度を検証することが重要です。
適正在庫を維持するための在庫管理のポイント
適正在庫は算出して終わりではなく、維持し続けることが重要です。維持するための在庫管理のポイントは3つあります。
1. 在庫回転率を定期的に確認する
在庫回転率とは、一定期間内に在庫が何回入れ替わったかを示す指標です。
在庫回転率を確認することで、在庫が適切に消化されているかを判断できます。回転率が低い場合は、過剰在庫や滞留在庫が発生している可能性があります。
適正在庫を維持するためには、定期的に数値を確認し、発注量を見直すことが重要です。
2. 製造リードタイムを短縮する
適正在庫数を維持するためには、製造リードタイムの短縮も欠かせません。
製造リードタイムが長いほど、管理すべき在庫の量は増えます。反対に、製造リードタイムを短くできれば、発注から出荷までの時間が短縮し、抱える在庫の量は少なくなります。
3. 在庫データをリアルタイムで更新する
適正在庫を算出しても、在庫データが古いと正しい判断ができません。
入出庫のたびに在庫情報を更新することが理想です。更新漏れが発生すると、欠品や過剰発注の原因になるため注意しましょう。
専門家のコメント
工場や出荷の休日が計算に組み込まれているか、前倒しの場合後ろ倒しの場合など、さまざまなケースが網羅できているか、改めて計算式をご確認ください。
需給調整なら「需っ給さん」がおすすめ
エクセルでの需給調整に限界を感じたら、食品製造業向けクラウドシステム「需っ給さん」がおすすめです。
需っ給さんとは、現場と経営の課題解決のための食品製造業向けクラウドシステムです。欠品による機会損失や売上減少、過剰在庫によるキャッシュフロー悪化といった、食品製造業の問題解決を目的としています。
需っ給さんでは、以下のことができます。
- PSI管理
- 賞味期限管理
- ロット管理
食品業界に特化して20年の企業だからこそ提供できる、業界唯一の需給調整システムです。エクセル運用に課題を感じている方は、ぜひ一度お問い合わせください。
まとめ
適正在庫の管理は、エクセルの計算式や関数を活用すれば自社でも実施可能です。ただし食品業界では、季節変動や商品数増加によって運用負荷が高くなります。
より高精度な需要予測や発注最適化を目指すなら、「需っ給さん」のような専用ツールの活用がおすすめです。まずは自社の在庫状況を把握し、適正在庫にもとづく在庫管理を始めていきましょう。



専門家のコメント
「食品ロスの削減の推進に関する法律」(略称 食品ロス削減推進法)において、2030年度までに2000年度⽐で⾷品ロス量を半減させる政府⽬標が掲げられています。
食品業界の一社一社のたゆまぬ努力が求められています。
参考:食品ロスの削減の推進に関する法律等
⾷品ロス削減⽬標達成に向けた施策パッケージ概要